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ソフテックだより 第117号(2010年7月7日発行)
技術レポート

「MELSECNET/HとCC-Link IEの比較」

1. はじめに

2008年に三菱電機株式会社より「CC-Link IE」(※1) に対応したシーケンサユニット、パソコン用ボードが発売されました。
CC-Link IEは、従来のMELSECNET/Hと同様の用途で、より高速・大容量のPLC間ネットワークを構築できるようになっています。
今回は、CC-Link IEとMELSECNET/Hの機能比較や、昨年当社でCC-Link IEを採用し、実際に使用して気づいた点などについてご紹介します。

2. CC-Link IEの特徴

2-1. MELSECNET/Hとの比較

CC-Link IEとMELSECNET/Hの機能について、表1に示します。
(MELSECNET/Hは「光ループ型」を例としています)

項目 CC-Link IE MELSECNET/H
通信速度 1Gbps 25Mbps
最大リンクリレー(B)点数 32K点(0〜7FFF) 16K点(0〜3FFF)
最大リンクレジスタ(W)点数 128K点(0〜1FFFF)
(ベーシックモデルCPU除く)
16K点(0〜3FFF)
最大接続局数(管理局含む) 120台
(QnUCPU以外は64台まで)
64台
最大局間距離 550m SI光ケーブル : 200m
H-PCF光ケーブル : 400m
広帯域H-PCF光ケーブル : 1km
QSI光ケーブル : 1km
GI光ケーブル : 2km
リンクスキャンタイム(※2)
(B/W0〜3FFF、64局時)
約 6ms 約 47ms
コネクタ形状(ユニット側)
コネクタ形状(ケーブル側)

表1. CC-Link IE と MELSECNET/H の機能比較

2-2. リンクスキャンタイムが高速

表1では比較のためMELSECNET/Hの最大構成でのリンクスキャンタイムを記載しています。
さらに、CC-Link IEの最大構成(B0〜7FFF・W0〜1FFFF・120局)でも、リンクスキャンタイムは14ms(計算値)となり、台数や点数が増えても大幅にリンクスキャンタイムが延びない仕様となっています。

2-3. トラブルシューティングしやすい

GX Developer(Ver.8.62Q以降、またはGX Works2)にて「CC IE Control診断」を行うとネットワーク図が表示され、異常局やIN/OUTの逆挿しなどの状態を視覚的にわかりやく確認することができます。

CC-Link IE 診断画面
図1. CC-Link IE 診断画面

3. CC-Link IE使用のポイント

3-1. ファイルレジスタ/拡張リンクレジスタの使用

CPU標準のデバイスメモリでは、「デバイス合計で29Kワード」の壁があるため、CC-Link IEの特徴である大容量のリンクレジスタは格納できません。
そのため、ファイルレジスタにリフレッシュする必要があります。

ファイルレジスタリフレッシュ
図2. ファイルレジスタリフレッシュ

しかし、アドレス表現の違い(10進/16進)や、単にファイルレジスタとして使っているのかリンクレジスタの代わりで使っているのかわかりにくい、という難点があります。そこで、ユニバーサルモデルQCPU(QnUシリーズ)では、「拡張リンクレジスタ」を使用できるようになりました。

拡張リンクレジスタ設定
図3. 拡張リンクレジスタ設定

拡張リンクレジスタリフレッシュ
図4. 拡張リンクレジスタリフレッシュ

3-2. ファイルレジスタは標準RAMに格納

ファイルレジスタは、標準RAMまたはメモリカード(RAM/ROM)に格納できます。
それぞれのメリット/デメリットを 表2 に記載します。

比較項目 標準RAM メモリカード 備考
読み書き速度 × 標準RAMはデバイスメモリと同等の速度
追加・変更 × メモリカードは後からサイズ変更しやすい
保守性 SRAMメモリカードはバッテリー交換必要
容量 最大容量 標準RAM / 1.75MB、メモリカード / 8MB

表2. 標準RAMとメモリカードの比較

ファイルレジスタ(拡張リンクレジスタ)をリンクデバイスのリフレッシュ先とするには読み書き速度が重要になるため、できるだけ標準RAMを使うのがお勧めです。

3-3. 標準RAM容量が大きいCPUの使用

CPUのグレードにより内蔵RAMの容量が異なります。
(2010年6月現在で最新の機能バージョンを対象としていますので、旧バージョンでは容量が異なる場合があります)

CPUグレード 標準RAM
容量
最大レジスタ
格納点数
ファイルレジスタ
範囲
リンクレジスタ
範囲 (※3)
Q00J / Q00UJ なし
Q02 64kバイト 32k点 0 〜 32767
Q00 / Q01 / Q02H / Q06H/
Q00U / Q01U / Q02U
128kバイト 64k点 0 〜 65535 0 〜 FFFF
Q03UD / Q03UDE 192kバイト 96k点 0 〜 98303 0 〜 17FFF
Q12H / Q25H /
Q04UDH / Q04UDEH
256kバイト 128k点 0 〜 131071 0 〜 1FFFF
Q06UDH / Q06UDEH 768kバイト 384k点 0 〜 393215 0 〜 5FFFF
Q10UDH / Q13UDH /
Q10UDEH / Q13UDEH
1024kバイト 512k点 0 〜 524287 0 〜 7FFFF
Q20UDH / Q26UDH /
Q20UDEH / Q26UDEH
1280kバイト 640k点 0 〜 655359 0 〜 9FFFF
Q50UDEH 1536kバイト 768k点 0 〜 786431 0 〜 BFFFF
Q100UDEH 1792kバイト 896k点 0 〜 917503 0 〜 EFFFF

表3. CPUごとの標準RAM容量/レジスタ点数

CC-Link IEのリンクレジスタ範囲はW0〜1FFFFですので、最大範囲で使用するにはハイパフォーマンスモデルではQ12H以上、ユニバーサルモデルではQ04UD(E)H以上が必要となります。
また、ファイルレジスタも併用する場合は、Q06UD(E)H以上が必要となります。

4. CC-Link IEの動作検証

4-1. CPUスキャンタイム(END処理時間)について

ラダーやSFCなどのプログラムの処理実行後、CPU側デバイス(B/W)とリンク側デバイス(LB/LW)のリフレッシュが行われます。
リフレッシュ時間が長くなると、そのぶんスキャンタイムが延びることになるため注意が必要です。(プログラムの処理が20msで終わっても、リフレッシュその他のEND処理に40msかかると、スキャンタイムとしては60msとなります)

弊社内にて動作確認を行った際の計算値(マニュアル記載の計算式による)と実測値(GX DeveloperのシステムモニタでのEND処理時間)は以下のとおりでした。

<環境条件>

CC-Link IE 局数
:5台
リンクレジスタ点数
:87040点 ※標準RAMに格納

<確認結果>

リフレッシュ時間
:[計算値] 36.0ms
:[実測値] 4.3ms

「実測値」はEND処理時間(リンクリフレッシュだけでなく、その他のI/Oユニット等とのリフレッシュ処理やGX Developerなどの通信処理も含む)のため、実際のリンクリフレッシュ時間はもっと短いということになります。
あまりに差があるため三菱電機へ問い合わせたところ、「計算値は様々な条件が重なった場合の最悪値の算出である」とのことでした。
あくまでも参考値として、実機構成での検証が必要ということがわかりました。

4-2. パソコンとの通信について

CC-Link IEにより大容量のデータが取り扱えるのはよいですが、パソコンを使って状態をモニタする際の通信データ量が増えることになり、リアルタイム性は問題ないか?という不安が出てきます。

参考として、弊社製のSCADAソフト「FAVIEW」を使用してPLCのデバイスをモニタした際の通信状況についてご紹介します。
なお、FAVIEWではPLCとの通信は、三菱電機製の通信ライブラリ「MX Component」を経由しています。

<環境条件>

PLC側構成
:Q06UDHCPU・CC-Link IEユニット・Ethernetユニット各1台
データ点数
:約60000ワード
スキャンタイム
:20ms
確認方法
:PLC側で1秒ごとにインクリメントするデバイスを用意。
そのデバイスをFAVIEW上でモニタし、変化のしかたを確認。

<確認結果>

変化状況
:2〜3ずつ値が変化(=通信時間は2〜3秒程度)
備考
:スキャンタイムを10ms増加させるごとに、通信時間は約1秒増加。
(スキャンタイム50msのときで4〜5秒程度)

通信速度を改善するには、以下のようなシステム構成の見直しが有効です。

(a). Ethernetポート付きCPUを使用する

Q06UDEHなど、CPUにEthernetポートが付いている機種を使用すると、Ethernetユニットを使用した場合よりも高速に通信できます。
(Ethernetユニットの場合はベースユニットを経由してCPUユニットと通信を行う形となりますが、Ethernetポート付きCPUではCPUユニット内部だけで動作が完結するなど、構造的な違いがあります)
構成にもよりますが、通信時間が1/10程度になることもあります。

(b). CC-Link IEボードを使用する

パソコンにCC-Link IE通信ボードを取り付け、パソコンをCC-Link IEネットワークの1局として構成します。
EthernetなどでPLCと直接やり取りする場合、1回の通信で読み出せるデータは960ワードに限られますが、CC-Link IEボードからの読み出しではそのような制限がありません。
また、監視ソフトはCC-Link IEボードとのやり取りとなるため、CPUのスキャンタイムに影響されず、その点でも高速に通信できます。

5. まとめ

CC-Link IEの大容量のリンクデバイスや接続局数の増加により、従来のMELSECNET/Hではネットワークを分けざるをえなかった大規模システムでも、1つのネットワークで構築して一括監視が行えるようになるなど、いろいろなメリットがあります。
「3.CC-Link IE使用のポイント」に挙げたとおり、CC-Link IEにはユニバーサルモデルQCPUが適しています。
PLCによる制御システムの新設やリプレースの際に、参考にしていただければ幸いです。

(S.T.)

[参考]
CC-Link協会 - 
CC-Link IE
http://www.cc-link.org/jp/cclinkie/index.html

CC-Link IE コントローラネットワークリファレンスマニュアル
マニュアル番号:SH-080649-I

Q対応MELSECNET/Hネットワークシステムリファレンスマニュアル(PC間ネット編)
マニュアル番号:SH-080026-R

Qn(H)/QnPH/QnPRHCPUユーザーズマニュアル(機能解説・プログラム基礎編)
マニュアル番号:SH-080803-D

QnUCPUユーザーズマニュアル(機能解説・プログラム基礎編)
マニュアル番号:SH-080802-F

[注釈]
※1
「CC-Link IE」には、「CC-Link IE Control」と「CC-Link IE Field」の2種類のラインナップ(2010年6月現在)があります。
本文では、CC-Link IE Control を対象としています
※2
各マニュアルに記載の計算式を使用した計算値です。実際の構成での実測値とは異なる場合があります。
※3
標準RAMをリンクレジスタとして使用できるのはユニバーサルモデル(型番にUが入っている)のみです。

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