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今まで『産業用ネットワーク 〜EtherNet/IPとは〜』(ソフテックだより第323号『産業用ネットワーク 〜EtherNet/IPとは〜』)、『MELSECNET/HとCC-Link IEの比較』(ソフテックだより第117号『MELSECNET/HとCC-Link IEの比較』)、『FL-netについて』(ソフテックだより第327号『FL-netについて』)など、様々なネットワークをご紹介してきました。
今回は、産業用ネットワークの1つである、CC-Link IEにスポットをあててご紹介いたします。
CC-Link IEは、2007年にCC-Link協会によって開発されたオープンネットワークです。CC-Link IE は、ギガビットEthernetを使用した高速・大容量の通信規格で、CC-Link IEには大規模コントローラネットワークの用途で開発されたCC-Link IE Controlとフィールドネットワーク用のCC-Link IE Fieldが公開されており、それぞれサイクリック通信、トランジェント通信を行うことができます。
また、CC-Link IE ControlとCC-Link IE Fieldは混在できません。
図1. ネットワーク階層イメージ
CC-Link IE Controlの主な仕様を下表に示します。
項目 | 仕様 | |
---|---|---|
1ネットワーク当たりの 最大リンク点数 |
LB | 32K点(32768ビット) |
LW | 128K点(131072ワード) | |
LX | 8K点(8192ビット) | |
LY | 8K点(8192ビット) | |
1局当たりの 最大リンク点数 |
LB | 16K点(16384ビット) |
LW | 16K点(16384ワード) | |
LX | 8K点(8192ビット) | |
LY | 8K点(8192ビット) | |
通信速度 | 1Gbps | |
1ネットワーク当たりの接続局数 | 最大120台 | |
総延長距離(光ケーブル総延長距離) | 66km(120台接続時) | |
局間距離(最大) | 550m(コア/クラッド=50/125(μm)) | |
最大ネットワーク数 | 239 | |
最大グループ数 | 32 | |
伝送路形式 | 二重ループ | |
光ファイバ仕様 | 1000BASE-SX(MMF)対応光ファイバーケーブル | |
規格 | IEC60793-2-10 Types A1a.1(50/125μm multimode) | |
伝送損失(max) | 3.5(dB/km)以下(λ=850nm) | |
伝送帯域(min) | 500(MHz・km)以上(λ=850nm) | |
コネクタ仕様 | 2連LC型コネクタ | |
規格 | IEC61754-20:Type LC connector | |
接続損失 | 0.3(dB)以下 | |
研磨面 | PC研磨 |
表1. CC-Link IE Control の主な仕様
CC-Link IE Controlは、1ネットワークの接続台数および1ネットワークでのリンク点数が多いことが特徴のネットワークです。
リンクデバイス(LB、LW)のサイクリック伝送は、下図のようにN:N型の交信が行われ、全ての局が全ての局のデータを共有する方式となっています。ただし、リンク入出力(LX、LY) のサイクリック伝送は1:1型の交信で、I/Oマスタ局とスレーブ局間で交信が行われます。
図2. CC-Link IE Control サイクリック伝送方式
また、汎用EthernetやCC-Link IE Fieldとの混在はできませんが、MELSECNET/Hと同様に伝送路二重ループとなっており、伝送路を冗長化した信頼性の高い通信を行うことができます。
ケーブル断線など異常が起きた場合も二重ループのため、もう片側でサイクリック伝送を続けることができます。また、両側のケーブルで異常が起きた場合も異常局のみ切り離し、残りの正常局ではサイクリック伝送を続けることができます。
図3. CC-Link IE Control伝送路二重ループ
〇メリット・デメリット
メリットとしては、リンク点数(LB:32768ビット、LW:131072ワード)の大容量のネットワークを構築できる点かと思います。デメリットとしては、汎用EthernetやCC-Link IE Fieldとの混在ができず専用配線が必要となる点かと思います。そのため、信頼性が必要な場合や大容量データを扱えるのでコントローラ(PLCなど)間でネットワークを構築するシステムへの導入が適しています。
CC-Link IE Fieldの主な仕様を下表に示します。
項目 | 仕様 |
---|---|
イーサネット規格 | IEEE802.3ab(1000BASE-T)準拠 |
通信速度 | 1Gbps |
通信媒体 | シールド付ツイストペアケーブル(カテゴリ5e)、RJ-45 コネクタ |
通信制御方式 | トークンパッシング方式 |
トポロジ | ライン、スター、リング |
最大接続台数 | 254台(マスタ局とスレーブ局の合計) |
最大局間距離 | 100m |
サイクリック通信(マスタ・スレーブ方式) | 制御信号(ビットデータ):32K点(32768ビット) RX(スレーブ→マスタ):16K点(16384ビット) RY(マスタ→スレーブ):16K点(16384ビット) 制御データ(ワードデータ):16K点(16384ワード) RWr(スレーブ→マスタ):8K点(8192ワード) RWw(マスタ→スレーブ):8K点(8192ワード) |
表2. CC-Link IE Field の主な仕様
CC-Link IE Fieldは、汎用EthernetやCC-Link IE Controlとの混在はできませんが、スター型、ライン型、スター・ライン混在型、リング型など、自在なネットワークトポロジにより、フレキシブルにネットワークが構築できることが特徴のネットワークです。また、Ethernetを使用したネットワークのため、ケーブル・コネクタ・HUBは市販の一般的なEthernet用製品を使用することができます。
図4. CC-Link IE Fieldネットワーク構成
リンクデバイス(RX、RWr、RY、RWw)のサイクリック伝送は、下図のように1:1型の交信でマスタ局と各スレーブ局(制御機器など)間で交信が行われます。ただし、ローカル局(PLCなど)に対してはマスタ局、スレーブ局、他のローカル局の入出力状態が転送されます。そのため、ローカル局でもマスタ局と同様に全局の入出力が格納されます。
図5. CC-Link IE Fieldサイクリック伝送方式
また、CC-Link IE FieldではCC-Link IE Fieldネットワーク内にモーション制御ネットワーク(CC-Link IE Motion)、安全機能ネットワーク(CC-Link IE Safety)を混在させることも可能です。
(※ CC-Link IE Motion、CC-Link IE Safetyについては後述します)
〇メリット・デメリット
メリットとしては、ケーブル・コネクタ・HUBは市販の一般的なEthernet用製品を使用できて、自在なネットワークトポロジのため、ネットワークを構築しやすい点かと思います。また、スレーブ局(制御機器など)とローカル局(PLCなど)が混在できるため、機器の制御を行うマスタ局だけでなく、ローカル局でも制御状態の監視を行うことができる点もメリットかと思います。
デメリットとしては、CC-Link IE Controlよりリンク点数が少ない点かと思います。
そのため、主にI/O、センサ、インバータなど制御機器とネットワークを構築するシステムへの導入が適しています。
CC-Link IEには、「CC-Link IE Control」「CC-Link IE Field」以外に、CC-Link IE Fieldと共存できるモーション用通信としてCC-Link IE Motionや、一般通信と安全通信を混在させて使用できるCC-Link IE Safetyも用意されており、汎用Ethernetを活用したCC-Link IE Field Basicも規格化されました。
CC-Link IE Field Basicの主な仕様を下表に示します。
項目 | 仕様 | |
---|---|---|
通信速度 | 100Mbps | |
実装方式 | ソフトウェア | |
接続形態 | スター(スイッチングHUB接続) | |
ケーブル | Ethernetカテゴリ5e以上 | |
1ネットワーク当たり最大接続局数(オープン仕様) | 64 | |
サイクリック通信 | 対応 | |
最大リンク点数/ネットワーク | RX,RY | 各512byte(4096ビット) |
RWr,RWw | 各4096byte(2048ワード) | |
最大リンク点数/局 (複数局占有可能) |
RX,RY | 各8byte(64ビット) …固定サイズ |
RWr,RWw | 各64byte(32ワード) …固定サイズ | |
リンクスキャンタイム(16台接続時) | 10ms | |
トランジェント伝送 | 可能(最大2kByte) | |
TCP/IP通信混在 | 対応 |
表3. CC-Link IE Field Basic の主な仕様
CC-Link IEField Basicは専用の機器を使用せずソフトウェアのみの実装で、サイクリック通信を実現するネットワークです。CC-Link IEField BasicはこのCC-Link IEの一部であり、より簡単にネットワーク対応ができます。汎用Ethernetのプロトコルスタック上で動作するアプリケーションソフトウェアのため、TCP/IP通信と混在が可能です。そのためCC-Link IEField Basic対応製品とEthernet対応製品を1つのケーブルで繋ぐことができ、様々な状況に対応できるシステムを構築できます。また、汎用Ethernetの回線上で、サイクリック通信による制御を実行しながら、TCP/IP通信で接続されている周辺機器(上位系パソコンやタブレット等)による設定・モニタが可能です。
図6. CC-Link IE Field Basicネットワーク構成
図7. CC-Link IE Field Basicプロトコル構成
〇メリット・デメリット
メリットは、専用配線が不要で汎用Ethernet(HTTP、FTPなど)と共存できるのでEthernetでのネットワークへ1本化できる点がメリットになるかと思います。デメリットは、通信速度、接続局数、リンク点数などがCC-Link IE Fieldより劣る点かと思います。また、CC-Link IE Field Basicではマスタ局とスレーブ局のみでローカル局は混在できません。
そのため、高速性が必要ない小規模のシステムへの導入が適しています。
CC-Link IE Motionは、サーボアンプ・モーターなどのモーション制御用のネットワークです。接続される各スレーブ機器(サーボアンプ)で『モーターの同期制御とは?』でご紹介したような同期制御が可能です。
また、I/Oやセンサなどの機器をサーボと同じCC-link IE Field ネットワーク上に配置して制御することが可能です。
図8. CC-Link IE Motion
欧州や北米など明確に法規制されている市場に輸出する場合や、国内でも、機械・装置の安全回路をユーザから指定された場合など、安全規格認証された機器を使用して設計する必要があります。
例えば、ライトカーテンの入力信号を一般制御用のPLCに入力しても、装置としては安全基準を満たしたことにはなりません。この場合、PLCとは別に安全コントローラが必須となります。
安全コントローラとは、PLCからの通常の制御信号と安全入力機器からの安全確認信号を受け、共に運転可能と判断される時のみ運転信号を出力し、モーターへ動力を供給するという、”判断機能”を持つコントローラです。
CC-Link IE Safetyは、下図のようにCC-Link IE通信を実現しつつ、安全通信機能を持つ安全制御機器(IE安全局)と一般制御機器を同一システムに混在することが可能な、CC-Link IEの安全フィールドネットワークです。既存のネットワークに対して簡単に安全制御システムを拡張することが可能です。
図9. CC-Link IE Safety
SLMPとは、各種Ethernet製品とCC-Link IE対応機器の間でのネットワークの階層・境界を意識しないアプリケーション間通信を可能にする共通プロトコルです。SLMPは、下図のようにTCP/IP、CC-Link IE 等のネットワーク階層上に実装されます。
図10. シームレス通信を実現するプロトコル構成
そのため、下図の構成のようにLANに接続パソコンなどから、ネットワークを越えてCC-Link IE や、CC-Link に接続された機器にアクセスし、データ取得や設定を行うことが可能です。
図11. SLMP通信によるデータ取得・設定
CC-Link IEについてご紹介しましたが、現在は次世代のネットワーク規格として「CC-Link IE TSN」が誕生しています。TSNは「Time Sensitive Networking」を意味していて、Ethernetをベースにしながら時間の同期性を保証しリアルタイム性を確保できるようにしたネットワーク規格です。特徴としては時分割機能にて異種ネットワークを混在させることができ、優先制御するネットワークを規定することができるのでリアルタイム性・安定性も確保している点です。導入されれば情報ネットワーク/コントローラネットワーク/フィールドネットワークを同じネットワークで構築することができるので楽しみな規格です。
また、「CC-Link IE TSN」はすでに仕様策定が完了しており、三菱電機株式会社からは2019年5月に対応製品の発売が予定されていますので、今後扱う機会があればソフテックだよりでも取り上げてみたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
(Y.R.)
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