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ソフテックだより 第323号(2019年2月6日発行)
技術レポート

「産業用ネットワーク 〜EtherNet/IPとは〜」

1. はじめに

近年、FA業界でもIoTやAIといった言葉が広く意識されはじめています。
工場においてこれらを実現し活用するために欠かせないのが、コントロール機器、センシング機器、メカトロニクス機器、等を接続し、様々なデータのやり取りを可能とする強力な産業用ネットワークです。

産業用ネットワークは、一般的に4つの階層(*1)に分けられ、上位層より順に

(1) MESや管理用PCを接続する「情報ネットワーク」
(2) PLCやDCSを接続する「コントローラネットワーク」
(3) センサやモーター、リモートI/Oを接続する「フィールドネットワーク」
(4) 最下位層の「省配線ネットワーク」

となります。

今回は、数あるフィールドネットワークの中でも、EtherNet/IPにスポットをあててご紹介します。

2. EtherNet/IPとは

EtherNet/IPは、LANケーブルを使用した産業用イーサネットの1つで、定周期でデータ通信を行うサイクリック通信と、任意のタイミングでデータの送受信を行うメッセージ通信の2種類の方法があります。

コントローラ同士の通信や、コントローラとスレーブ間での通信が可能であり、どの階層でも幅広く対応できる汎用性が大きなメリットとなります。

また、FTPやSMTPと同様の汎用イーサネットをベースとしているため、EtherNet/IPの通信と同時にファイルやメールの送受信などを行うことも可能です。

ネットワーク階層イメージ
図1. ネットワーク階層イメージ

2.1 サイクリック通信

設定した通信周期(RPI)ごとに、一定周期で通信を行うのがサイクリック通信となります。
サイクリック通信の方が馴染み深いですが、EtherNet/IPではImplicit通信と呼称されています。
1:Nのブロードキャスト送信も可能で、通信相手毎に異なる通信周期を設定することもできます。
ただし、余りにも短い通信周期の場合、ネットワーク内の接続機器数やトラフィック(通信量)によっては満たせない場合もあるため、ネットワーク状況を考慮し実現可能な通信周期で設計する必要があります。

サイクリック(Implicit)通信イメージ
図2. サイクリック(Implicit)通信イメージ

2.2 メッセージ通信

定周期で通信を行うサイクリック通信に対して、1:1で任意のタイミングで送受信を行うのがメッセージ通信となります。サイクリック通信では送受信できないデバイスの送受信にも対応できます。
なお、EtherNet/IPではExplicit通信と呼称されています。

メッセージ(Explicit)通信イメージ
図3. メッセージ(Explicit)通信イメージ

3. 通信設定(EDSファイル)

各機器のコネクション設定はEDS(*2)というテキストファイルで定義します。各EtherNet/IP機器メーカーが用意しているEDSファイルを読み込むことで、メーカーが異なる製品でも簡単な操作でコネクション毎に設定を行うことが可能となっています。

具体的には、コネクションの名称やデータサイズ、通信タイプ、リフレッシュ優先度など、コネクション毎に様々な項目があり、各メーカーにて初期値が設定されています。
これらの設定値は、必要に応じてメーカーから提供されるツールにて変更することも可能ですが、特殊な事情がない限りは、初期値で運用する事が望ましいです。変更の際は、十分に設計を行ったうえで実施ください。

なお、EDSファイルは機器購入時にメーカーから入手したり、メーカーのHPから取得することができます。また、同メーカー同士の機器であれば、提供されるツールに予めEDSファイルが組み込まれていることも多いです。

4. EtherNet/IP対応機器

参考までに、実際にどのような機器がEtherNet/IPに対応し使用できるのか、具体的な製品をいくつか例に挙げてご紹介します。(2019年1月時点)

4.1 コントローラ

EtherNet/IPに対応している代表的なコントローラは下記の通りです。

メーカー タイプ 型式
KEYENCE
(KV)
CPU内蔵 KV-7500/5500/NC1EP
(https://www.keyence.co.jp/products/controls/)
通信ユニット KV-XLE02/KV-EP21V
三菱
(MELSEC)
通信ユニット QJ71EIP71(Qシリーズ)
(http://www.mitsubishielectric.co.jp/fa/products/spec_plc.html)
RJ71EIP91(iQ-Rシリーズ)
横河
(FA-M3)
通信ユニット F3LN01-0N
(https://www.yokogawa.co.jp/solutions/products-platforms/control-system/programmable-logic-controller/)
オムロン
(NX/NJ他)
CPU内蔵 NX701-1□□□/102-1□□□、NJ501/301-□□□□
(https://www.fa.omron.co.jp/products/category/automation-systems/networks/ethernet_ip/)
Rockwell
(Allen-Bradley)
CPU内蔵 CPU内蔵 ControlLogix5580、CompactLogix5370/5380
(https://ab.rockwellautomation.com/ja/Programmable-Controllers)

表1. EtherNet/IPに対応した代表的なコントローラ

4.2 センサ(変位センサ、流量計、圧力計、画像センサその他)

変位センサや流量・圧力計など、各種センサもEtherNet/IPに対応した製品があります。
また、カメラで撮影した映像を画像処理し、データや判定結果を出力する画像センサもEtherNet/IPに対応した製品があります。汎用イーサネットを使用するため、FTPで画像ファイルのやりとりをすることも容易になります。

メーカー 分類 型式(参考リンク)
KEYENCE CPU内蔵 ファイバ、レーザ、光電、流量、圧力、変位、画像処理など、 D-busとN-busに対応した各機器がEtherNet/IPに対応
(https://www.keyence.co.jp/ss/products/controls/network/case/)
オムロン 画像処理 FH/FZ5/FQ2シリーズ
(https://www.fa.omron.co.jp/products/category/automation-systems/networks/ethernet_ip/)
EndressHauser
(エンドレスハウザージャパン)
流量計 流量計 Proline Promass S100/Promag H100シリーズ
(https://www.jp.endress.com/ja/Field-instruments-overview)
分析計 Liquiline CM448

表2. EtherNet/IPに対応した代表的なセンサ

4.3 リモートI/O

リモートI/OもEtherNet/IPに対応した製品があります。

メーカー 名称(型式) 説明
KEYENCE CKV-EP02 EtherNet/IP対応通信ユニット
KV-Nシリーズ KV-Nシリーズの各ユニットが使用可能
(https://www.keyence.co.jp/products/controls/
plc-package/kv_nano/
)
MSYSTEM R3-NEIP1 EtherNet/IP対応通信カード
R3シリーズ R3シリーズの各カードが使用可能
(http://www.m-system.co.jp/products/remote/remote01.html)
WAGO
(ワゴジャパン)
750-841/341 EtherNet/IP対応バスカプラ、750シリーズの各モジュールが使用可能
(https://www.wago.co.jp/download/tech/data/
EthernetIP_Description_jp_V100.pdf
)
オムロン NX-EIC202 EtherNet/IP通信カプラユニット
NXシリーズのセーフティとスレーブターミナルの各ユニットが使用可能
(https://www.fa.omron.co.jp/product/selection/23/
recommend_ethernet_ip.html
)
Rockwell
(Allen-Bradley)
5069 Compact ベース型コンパクトI/Oモジュール
(https://ab.rockwellautomation.com/ja/IO/Chassis-Based/
5069-Compact-IO
)

表3. EtherNet/IPに対応した代表的なリモートI/O

4.4 サーボ、インバータ、ロボット、電動アクチュエータ、バルブマニホールド

サーボやインバータ、ロボット関連にもEtherNet/IPに対応した製品があります。

メーカー 分類 名称(型式) 説明(参考リンク)
Rockwell
(Allen-Bradley)
サーボ Kinetixシリーズ Kinetix350/5500/5700/6500
(https://ab.rockwellautomation.com/ja/Motion-
Control/Servo-Drives
)
インバータ PowerFlexシリーズ PowerFlex 755TL/TR/TM/753/755/525
(https://ab.rockwellautomation.com/ja/Drives/
Low- Voltage-AC-Drives
)
デンソーウェーブ ロボット RC8シリーズ RC8(VP/VS/VM/HS/HM/XR)
アダプタボードを増設することで対応
(https://www.denso-wave.com/ja/robot/)
ヤマハ発動機 ロボット RCX340 RCX340 XY-X/YK-X/FLIP-X/PHASER/YP-X
多軸コントローラ(RCX340)経由で対応
(https://www.yamaha-
motor.co.jp/robot/lineup/controller/rcx340/
)
セイコーエプソン ロボット RC700/RC90/RC90-B G/RS/LS-B/LS/C4/C8/S5
専用コントローラ(RC700/RC90/RC90-B)経由で対応
(https://www.epson.jp/prod/robots/)
SMC ステップモータ JXC91
(LE□シリーズ)
ステップモータコントローラ(JXC91)経由で制御
バルブマニホールド EXシリーズ EX600/EX260
富士電機 インバータ FRENIC-Ace 通信カード(OPC-PRT)を使用することで対応可能
(https://www.fujielectric.co.jp/products/inverter/
frenic-ace/
)
安川電機 インバータ SI-EN3
(GA700/A1000/V1000)
通信カード(SI-EN3)を使用することで対応可能

表4. EtherNet/IPに対応した代表的な制御機器

4.5 バーコードリーダ

バーコードリーダもEtherNet/IPに対応した製品があります。

メーカー 名称(型式) 型式(参考リンク)
KEYENCE SR/BL/HR
シリーズ
SR-2000/1000/750/700/G100
BL-1300/700/180、HR-100
(https://www.keyence.co.jp/products/autoid/)
SICK CLVシリーズ CLV69/65/64/63/62x
(https://www.sick.com/jp/ja/identification-solutions/bar-code-scanners/c/g79766)
COGNEX DataMan8000
シリーズ
DataMan8000
(http://machine-vision.jp/barcode/product/dataman8000.html)

表5. EtherNet/IPに対応した代表的なコードリーダ

4.6 表示器(タッチパネル)

グラフィックターミナル関連にもEtherNet/IPに対応した製品があります。

メーカー 名称(型式) 参考リンク
Rockwell
(Allen-Bradley)
PanelView5000シリーズ (https://ab.rockwellautomation.com/ja/Computers)
オムロン NA/NSシリーズ (https://www.fa.omron.co.jp/products/category/automation-systems/programmable-terminals/)
Schneider
(Pro-face)
SP5000/GP4000
/GP3000/ LT4000Mシリーズ
(https://www.proface.com/ja/product/hmi/top)

表6. EtherNet/IPに対応した代表的な表示器

5. メリットとデメリット

最後に、EtherNet/IPについて調べていく中で感じたメリットとデメリットをいくつか箇条書きでまとめます。

メリット

  • どのネットワーク階層でも幅広く対応できる汎用性がある
  • EtherNet/IP通信と同時にFTPでファイルの送受信などを行うことも可能
  • 標準イーサネットを利用しているため、イーサネット技術の進歩に追従しやすいプロトコルである

デメリット

  • コントローラ間でサイクリック通信する場合、送信側と受信側それぞれでデバイスの割付設定が必要

デメリットとして挙げた点について、EtherNet/IPのサイクリック通信を用いて、コントローラ間でデータの送受信をする場合、送信側コントローラで送信デバイスの範囲を「タグ」と呼ばれる単位で設定し、受信側のコントローラでどの「タグ」を受信し、受信したデータをどのデバイスに展開するかという設定を行います。
CC-LinkIEやFL-netなど共有メモリにより通信するプロトコルでは、ノード毎に共有したいメモリエリアを割り付けることで通信するため、これと比較するとやや設定の手間があると思います。

また、EtherNet/IPに限らず産業用イーサネット全般に言えることですが、サイクリック通信の説明でも触れましたように、同ネットワーク内のEthernet機器の通信状況によってはデータの遅延が考えられ、リアルタイム性が重要であるFA制御においては致命的な欠点となり得るため注意が必要です。
対策としては、リアルタイム性が重要なネットワークを分離した設計をすることなどが考えられます。

6. おわりに

冒頭でも述べましたように、近年IoTやAIに関する技術がとても注目されるようになりました。
このような背景が後押しして、産業用イーサネットが益々普及していくと思います。
また、既に各社メーカーから様々な種類の機器が展開されており、ネットワーク内のほとんどの機器をEtherNet/IPで統一することもできそうです。もちろん、各通信ユニットにも幅広く対応しており、一部分を他のプロトコルで対応するということも可能です。

今回はEtherNet/IPということでご紹介しましたが、機会があれば他の産業用イーサネットであるEtherCATやPROFINETについてもご紹介できればと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。

(Y.T.)

[参考]
(1) ODVA TAG Japanホームページ:http://odvatagjapan.iinaa.net/EtherNet/EtherNet.html
(2) Anybus 産業用ネットワーク市場シェア動向2018:
(3) 産業用イーサネット通信プロトコルの現在:http://www.tij.co.jp/jp/lit/wp/jajy071a/jajy071a.pdf
(4) 代表的な産業用ネットワーク通信プロトコルの一覧
産業用イーサネット シリアル通信
CC-Link IE CC-Link
Modbus/TCP Modbus/RTU
PROFINET PROFIBUS DP
EtherCAT CAN(CANopen)
FL-net DeviceNet
MECHATROLINK-V MECHATROLINK-U
MECHATROLINK-4 CompoNet
POWERLINK ControlNet
EtherNet/IP AS-i

表7. 代表的な産業用ネットワーク

[注釈]
*1
「フィールドネットワーク」を最下層とした3つの階層で紹介される場合もあります。
*2
Electronic Data Sheetsの略

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