1. はじめに
突然ですが、皆さまは「伊那食品工業」という会社をご存じでしょうか?
ソフテックだよりをお読みくださっている読者の中には、ご存じの方も多くいらっしゃるかと思います。
もしかすると社名には馴染みがないという方もいらっしゃるかもしれませんが、「かんてんぱぱ」と聞けば、思い当たる方も多いのではないでしょうか。
昨年、その「伊那食品工業」の本社および近隣工場を見学させていただく機会がありました。
見学の目的は、ソフテックでも力を入れて取り組んでいる5Sについて、新たな気づきや学びを得ることです。
以前から興味深い会社だと感じていましたが、見学を通して多くの気づきと学びがありましたので、ご紹介させていただきます。
2. 伊那食品工業について
本題に入る前に、伊那食品工業がどのような会社で、どのような点に特徴があるのかを簡単にご紹介いたします。
伊那食品工業は、長野県伊那市を拠点とし、主に寒天やゲル化剤を製造する企業です。
それにもかかわらず、インターネットで調べてみると、『トヨタが学ぶ』『世界のトヨタが「師匠」と呼ぶ』など、
寒天とは全く異なる分野で、日本を代表する自動車業界の企業名が登場します。
実は、伊那食品工業は、良い意味でとても変わった企業で、安定した業績はもちろんのこと、それに至る経営理念や企業文化など、
経営哲学的な側面が高く評価され、業界や業種を問わず全国の多くの企業から注目されています。
具体的な例として、訪問前の下調べや伺ったお話の中で特に印象的だった点を挙げます。
- 利益よりも持続性を重視した経営指針「年輪経営」を掲げ、理論だけでなく48期連続増収増益という実績を持つ。
- 「会社は社員とその家族の幸せのためにある」と明言し、徹底的に社員の働きやすさに配慮している。その結果、
退職率が非常に低く、塚越寛最高顧問の著書には「この20年間、会社が嫌で退職した人間はゼロである」との記述もある。
- 徹底した5S活動。粉末を扱う工場でありながら、床に粉が落ちておらず、非常に綺麗な状態が保たれている。
3. 実際に見学して感じた「徹底された5S活動」3選
前置きが長くなりましたが、そうした特長を持つ伊那食品工業の本社や工場を見学させていただいた際には、
トイレの清潔さや手入れの行き届いた庭園、そして当然のように美しく保たれた各建屋の内部など、挙げればきりがないほど、
あらゆる場所で5Sが徹底されている様子を目の当たりにしました。
今回は、その中でも特に印象に残った5S活動を3つご紹介します。
3-1. 駐車場でも5S徹底
伊那食品工業の公式HP
(凡事継続 | 伊那食品工業株式会社)
にも記載されていますが、社員駐車場では車の後ろ側が揃えられています。
実際に訪れて社員駐車場を見学したところ、50台以上の車が並ぶ中で、
すべての車が例外なくきちんと揃えられており、その光景は圧巻でした。

図1. 社員駐車場
案内してくださった方によれば、いつ訪れてもこの状態が保たれており、なかには車を揃えるために何度も乗り降りして調整する社員もいるとのことでした。
実際に見学するまでは、「遅刻しそうな時などは、つい妥協してしまうのでは?」「少しずつ気の緩みが出て、中途半端になってしまうのでは?」といった邪な疑念を抱いていました。
しかし、ここまで徹底された様子を目の当たりにして、そのようなことは一切ないのだろうと考えが一変しました。
また、庭の草木に排出ガスがかからないようにとの配慮から、前向きに駐車されている場所もあり、一般来訪者と思われる車までもがそれに倣って前向きに駐車されていました。
徹底された5Sは、社内だけでなく外部にも好影響を与える力があると感じました。
3-2. 傘立てでも5S徹底
各棟の入口や敷地内の各所には、来場者向けに貸出用の傘が設置されていました。どの傘立てを見ても、傘の柄の向きがすべて統一されており、1本たりとも例外がありませんでした。
見学当日は晴天でしたが、ここまで整然としていると、返却時にも自然と揃えて戻そうという意識が働くのではないかと思います。
ここでも、徹底した5Sには周囲に好影響を及ぼす力があることを感じました。

図2. 敷地内に設置された貸出用傘立て
また、敷地内の庭にある屋外ベンチには、「テーブル椅子が汚れていましたらこの布をお使いください」と書かれた布入りの容器が置かれており、来場者への細やかな配慮に驚かされました。

図3. 屋外ベンチの上には
3-3. 製造ラインでも5S徹底
製造ラインでは、「かんてんぱぱ」シリーズの粉末商品『カップゼリー80℃』の包装機ラインを見学することができました。
粉末を袋詰めする工程でありながら、事前に聞いていた情報通り、床には粉が一切落ちておらず、非常に清潔な環境が保たれていました。

図4. 粉末包装機ラインの見学
当初は、「見学エリアだけ特別に清掃しているのでは?」と、ここでも邪な疑念を抱いていましたが、伊那食品工業の方によれば、
自社で生産設備の設計・製造・メンテナンスを行っており、そもそも粉が落ちない・粉塵が立たない工夫をしている。一般向けに見学開放しているこの場所は、
寧ろ手入れがしづらく、他の工程はもっと綺麗だったりもするとのことでした。
綺麗であることが直接利益には繋がらないと思いますが、時間とコストをかけてでも5Sを徹底されている姿勢を知り、ここまで綺麗な環境が保たれているのにも納得がいきました。
4. 見学を終えて
4-1. 共通して感じたこと
今回の見学を通して特に印象に残ったのは、徹底した5Sが周囲にまで好影響を与える力を持つということです。
そして、駐車場の整列も傘立ての向き統一も同じですが、1つでも乱れがあるとそこから徐々に徐々に崩れ始めていくように思います。
そういった意味では、「徹底した5S」と「中途半端な5S」では効力に差があり、徹底することに意味があるのだということを強く感じました。
4-2. 心境の変化
ソフテックでも5S活動を推進しています。私が見学に参加したのも、5S推進室の副室長で社内の5S活動を推進していく立場にあるためです。
(…ソフテックの5S活動については、過去のメルマガでも紹介していますので、ご興味のある方は、ページ下部のリンクをご参照ください)
社員用傘の向きを揃える、一斉清掃の頻度を上げるなど具体的に取り入れた内容もありますが、今回の見学を経て一番大きな変化は、私自身が5S活動に前向きになれたことです。
入社当初は、5Sの意義や推進することに納得し、何の疑問も抱くことなくいましたが、5S推進室員となり、さらに副室長と、推進していく立場になるにつれ、
改善しなければという義務感や焦りから、次第に「やらされている感」を抱くようになり、気持ちが後ろ向きになっていました。
しかし今回の見学で、5Sを徹底することに意味があると腹落ちしたことで、自分自身の意識が変わり、以前よりも5Sについて真剣に考える時間が増えました。
また、早く改善しなければという焦りもありましたが、伊那食品工業の方から、同社では準備や運営を全て社員が行う「かんてんぱぱ祭」
を開催していたり、毎朝の全体朝礼時に社員100名程度の前で行う3分間スピーチをしていたり、何をやるにも一体感を大切にしており、
そういった雰囲気や社風が良い方向に繋がっているというお話を伺いました。これを聞き私は少し肩の荷が下りた気がしました。
例えば、社員間の挨拶の声をもっと大きくしようとしても、長い年月で根付いた習慣的な部分の改善には時間がかかるものです。
そういった取り組みに対し、結果を急ぎすぎていたと気づくことができ、焦らずじっくり取り組んでいくことの大切さを思い出させてくれました。
5. おわりに
伊那食品工業の見学を通して、5Sに関する気づきや感じたことをご紹介させていただきました。
ソフテックでは2006年に5S推進室を発足し、私が入社する前から5S活動に取り組んできました。
今後もより一層ソフテックの5S活動に磨きをかけ、「徹底した5S活動を行っている」と胸を張って言えるよう、取り組みを続けていきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
また、見学の機会をいただきました伊那食品工業株式会社様、ならびにご案内くださいましたご担当者の皆さまに、心より感謝申し上げます。誠にありがとうございました。
(Y.T.)