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ソフテックだより 第279号(2017年4月5日発行)
技術レポート

「ネットワーク機器の通信障害対策」

1. はじめに

10年くらい前からスマートフォンが普及し始め、現在では日常の生活範囲であれば、どこでも情報を素早く入手できるようになりました。
スマートフォンが普及し始めることに比例して情報の形態が多彩になっていき、現在では画像や動画といった色々な形態の情報を入手することができるようになっています。
それらの情報は多数のネットワーク機器を経由したネットワークによって運ばれてきますが、そこには様々な技術が使用されており、その恩恵によって情報を入手できています。稀に通信障害が発生することはありますが、多くの場合は滞りなく運用されており、普段あまり意識されることはありません。今回、そのネットワーク技術の内、通信障害対策の技術について取り上げたいと思います。
なお、ネットワークの通信障害対策の技術はかなり多彩であり、また多岐に渡るため、ここではSTP、MRP、OSPF、VRRP、光バイパススイッチ、チーミング、バックアップ回線を使った通信障害対策を取り上げます。

2. それぞれのネットワーク機器の通信障害対策

 

2.1 STP(Spanning Tree Protocol)/RSTP(Rapid Spanning Tree Protocol)

STPは自動でネットワークのループ状態を回避するネットワーク構成にすることで通信障害を回避することができる通信障害対策の技術です。
一般のLANではスター型のネットワーク構成を取りますが、このスター型のネットワーク構成の場合、途中のネットワーク経路がループ状のネットワーク経路になっていると通信に問題が発生します。
ループ状態になっているとそのループの中で延々とネットワークデータが繰り返し流され、そのネットワークを経由して通信できなくなります。この状態を回避する技術にSTPがあり、途中の経路を自動で判断してループ状態にならないようにして通信ができるようになります。
このSTPを利用して、予め、ループ状のネットワーク構成にすることで、断線等のネットワーク障害を回避できるネットワーク構成にすることができます。

STPは汎用的な通信技術であるため、色々な組み合わせのネットワーク構成で使用することができます。しかし、反面、ネットワーク障害時の復旧に時間がかかってしまう(STPでは復旧に最大50秒かかります)等の問題もあり、その問題も補うため高速な復旧を可能としたRSTPやRSTPを拡張して複雑なネットワーク構成に対応したMSTP(Multiple Spanning Tree Protocol)があります。
ネットワーク機器によっては、従来のMSTPよりも多くの台数のネットワーク機器に対応した拡張MSTPを実装しているものもあり、それらの機器を使用することでより柔軟なネットワークを構築することができます。

図1. [STP]ネットワークの通信はそれぞれのネットワーク機器を経由して通信

図1. [STP]ネットワークの通信はそれぞれのネットワーク機器を経由して通信

図2. [STP]途中の経路がループ状態になっていると通信がオーバーフローして通信ができなくなる

図2. [STP]途中の経路がループ状態になっていると通信がオーバーフローして通信ができなくなる

図3.[STP]STPによりループ状態を回避して通信のオーバーフローを防いで通信できるようにする

図3.[STP]STPによりループ状態を回避して通信のオーバーフローを防いで通信できるようにする

図4.[STP]予めループ状態を用意しておき、平常時はSTPにてループを回避して通信

図4.[STP]予めループ状態を用意しておき、平常時はSTPにてループを回避して通信

図5. [STP]通信障害時では、障害が発生した経路以外を経由して通信する

図5.[STP]通信障害時では、障害が発生した経路以外を経由して通信する

2.2 MRP(Metro Ring Protocol)

MRPはリング状のネットワークに特化することで、STPでは実現できない短時間での復旧ができる通信障害対策の技術です。
MRPは高速な復旧ができる反面、単一のリング状のネットワークであることや同種の光ファイバケーブルといったネットワークケーブルといった制限があります。
また、高速な復旧を可能とするため、1つのMRPで対応できる台数が制限されます。この台数制限は通常では最大50台くらいです。
なお、同様のリング状のネットワークでの技術にはMRP以外にも、RPR(Resilient Packet Ring)、EAPS(Ethernet Automatic Protection Switching)、MMRP2(Multi Master Ring Protocol 2)等があります。

図6. [MRP]ネットワーク構成図

図6. [MRP]ネットワーク構成図

図7. [MRP]平常時はマスターとなるハブを起点にループを回避して通信を行う

図7. [MRP]平常時はマスターとなるハブを起点にループを回避して通信を行う

図8. [MRP]障害時は障害が発生したハブを起点にブロックして通信を続ける

図8. [MRP]障害時は障害が発生したハブを起点にブロックして通信を続ける

2.3 OSPF(Open Shortest Path First)

OSPFは自動的に最適なネットワーク経路を使って通信することができる通信障害対策の技術です。
OSPFではネットワーク経路の品質を定義しておき、通信する際に最適な経路を自動的に判断させることで、ネットワーク障害が発生した際には障害が発生した経路を自動的な迂回して通信を継続することができます。
そのため、通信障害に強く、また拡張性が良いネットワークを構築できます。

図9. [OSPF]ネットワーク構成例

図9. [OSPF]ネットワーク構成例

図10. [OSPF]平常時は最も良い経路で通信

図10. [OSPF]平常時は最も良い経路で通信

図11. [OSPF]通信障害時は障害が起きていない経路の間で最も良い経路を通って通信

図11. [OSPF]通信障害時は障害が起きていない経路の間で最も良い経路を通って通信

2.4 VRRP(Virtual Router Redundancy Protocol)

VRRPは複数のルーターを仮想的に1台のルーターとして通信させ、障害が発生しても通信を継続できる通信障害対策の技術です。
マスタールーターが故障した場合、バックアップルーターがマスタールーターの仮想IPアドレスや仮想MACアドレスを引き継ぎ、通信が継続できるようになります。

図12. [VRRP]概要図

図12. [VRRP]概要図

図13. [VRRP]平常時はマスタールーターを経由して通信

図13. [VRRP]平常時はマスタールーターを経由して通信

図14. [VRRP]通信障害時はバックアップルーターを経由して通信

図14. [VRRP]通信障害時はバックアップルーターを経由して通信

2.5 光バイパススイッチ(Optical Bypass Switch)

光バイパススイッチは障害が発生した機器を迂回するように通信経路を確立することで、ネットワーク全体の通信に影響が出てしまうことを防ぐことができる通信障害対策の技術です。
光ファイバーによるネットワークでは途中の機器に停電等の障害が発生した場合、そのネットワーク機器から先への通信ができなくなります。MRP等では別経路でのネットワーク障害に対応しますが、複数台のネットワーク機器に障害が発生してしまうと通信に影響が起きてしまいます。

図15. [光バイパススイッチ]光ファイバーによるネットワークではそれぞれのハブが中継して通信する

図15. [光バイパススイッチ]光ファイバーによるネットワークではそれぞれのハブが中継して通信する

図16. [光バイパススイッチ]途中のハブに障害が発生すると途中までしか通信できない

図16. [光バイパススイッチ]途中のハブに障害が発生すると途中までしか通信できない

図17. [光バイパススイッチ]光バイパススイッチを使用することで障害が発生したハブを迂回して通信

図17. [光バイパススイッチ]光バイパススイッチを使用することで障害が発生したハブを迂回して通信

2.6 チーミング(Teaming)

チーミングは複数のネットワークケーブルを束ねて仮想的に1本のネットワークケーブルとして見なすことで、通信を続けることができる通信障害対策の技術です。
複数のネットワークケーブルを束ねることができるため、束ねたネットワークケーブルのどれか1本が断線しても通信を継続できるようになります。
WindowsではWindows Server 2012以降であれば標準機能でチーミング機能を具備しています。
Linuxではボンディング(Bonding)と呼ばれる機能としてチーミング機能を具備しています。
ネットワーク機器ではチーミング機能はネットワーク機器によって名称が異なる場合が多く、ポートトランキング(Port Trunking)、リンクアグリゲーション(Link Aggregation)、イーサチャネル(EtherChannel)等と呼ばれます。
ネットワーク機器では安価な機種以外なら多くの機種が対応しています。ネットワーク機器同士の接続の場合は、同機種シリーズ間のみの通信制限があったりする等、WindowsやLinuxでのチーミング機能より制限がかかる場合があります。

図18. [チーミング]通常のネットワーク接続は1本のネットワークケーブルで接続

図18. [チーミング]通常のネットワーク接続は1本のネットワークケーブルで接続

図19. [チーミング]複数のネットケーブルを束ね、1本のネットワークケーブルと見なして通信

図19. [チーミング]複数のネットケーブルを束ね、1本のネットワークケーブルと見なして通信

図20. [チーミング]平常時は1本のネットワークケーブルと見なして通信

図20. [チーミング]平常時は1本のネットワークケーブルと見なして通信

図21. [チーミング]通信障害時は障害が発生したネットワークケーブルを使用しないで通信

図21. [チーミング]通信障害時は障害が発生したネットワークケーブルを使用しないで通信

2.7 バックアップ回線

平常時はメイン回線で通信を行い、メイン回線に通信障害が発生した場合にバックアップ用の回線を利用する通信障害対策の技術です。
メイン回線とは別種の回線をバックアップ回線として利用することで完全に通信できなくなることを防ぎます。
例えば、メイン回線に専用線を使用してバックアップ回線に安価なインターネットVPNのネットワーク構成をとったり、バックアップ回線として3G/LTEモバイル回線を使った簡易的なネットワーク構成をとったりする等、色々なネットワーク構成をとることができます。

図22. [バックアップ回線]構成図

図22. [バックアップ回線]構成図

図23. [バックアップ回線]平常時はメイン回線で通信を行う

図23. [バックアップ回線]平常時はメイン回線で通信を行う

図24. [バックアップ回線]通信障害時はバックアップ回線で通信を行う

図24. [バックアップ回線]通信障害時はバックアップ回線で通信を行う

図25. [バックアップ回線]専用線とインターネットVPNを組み合わせた例

図25. [バックアップ回線]専用線とインターネットVPNを組み合わせた例

図26. [バックアップ回線]専用線とモバイルデーター通信を組み合わせた例

図26. [バックアップ回線]専用線とモバイルデーター通信を組み合わせた例

3. おわりに

今回は、いくつかのネットワーク通信障害対策を取り上げましたが、これらの技術以外にも、TRILL(Transparent Interconnection of Lots of Links)、SPB(Shortest Path Bridging)、MC-LAG(Multi-Chassis Link Aggregation Group)等と新しい技術が次々と生み出されており、世の中のネットワークは日々、複雑で高度なネットワークとなっていっています。
最近ではIoT(Internet of Things。モノのインターネット)の小電力無線も注目される等、無線を使ったネットワークも発達していっています。今回、無線ネットワークについては取り上げませんでしたが、それらの無線ネットワークにおける技術も多岐に渡ります。
今後もネットワークの発展によって便利な世の中になっていくと思いますが、そこには様々な技術が縁の下の力持ちとなっていることを忘れないでいきたいと思います。

(K.O.)

[注釈]
・それぞれの通信障害対策における説明では、一般的に多く使用される機器で説明しています。
・専門用語の使用を控えているものもあるため、本来の名称は異なるものもあります。(例えばノード等)
[参考]
オーム社「マスタリングTCP/IP 入門編」、「マスタリングTCP/IP 応用編」

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