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私は入社して約30年になる50代の社員で、主に組み込み系のソフトウェア開発を担当しています。
組み込みソフトウェア開発ではマイクロ秒やナノ秒単位の時間制御を求められることがあり、ソフトウェアが正しく動作しているかを確認するには、ロジックアナライザ(以下、ロジアナ)による波形計測が欠かせません。

図1ロジアナでの波形計測
ロジアナは組み込みソフトウェア開発には欠かせない機器ですが、私は入社から7年目くらいまではロジアナ計測に苦手意識がありました。
それは、「適切な計測ポイントが分からない」という経験不足と、「多数の計測ポイントへの接続が面倒だ」という気持ちがあり、ロジアナの使用を避けていました。
ハードとソフトの原因の切り分けを行う際に計測したほうが早い場合でも、まずはソースコードの確認から始め、内心では「できることなら計測せずに済ませたい」という気持ちが常にありました。
しかし、ある出来事をきっかけに、この意識が変わりました。今回は、その体験について紹介したいと思います。
入社から7年目の2002年頃、ある組み込み開発案件を担当していました。スケジュールは極めて厳しく、顧客からは「できるだけ早くソフトをリリースしてほしい」と繰り返し要望をいただいていました。
デバッグ完了の暫定版ソフトをリリースする日を顧客と約束し、何としても間に合わせるため、上司とともに連日必死に作業を続けていました。
約束した日の前日、ようやく一通りのデバッグ作業が終わり、最後にプログラムをワンタイムROMに書き込んで確認することになりました。(※1)
ところが、ROMに書き込んで動作させてみると、ソフトはまったく起動しません。残された時間はわずかで、「もうダメだ。間に合わない。」と絶望した気持ちになったことを今でも鮮明に覚えています。
(※1)最近はCPU上にフラッシュROMが搭載されており、容易にプログラムの書き換えができますが、当時は書き換えできないワンタイムROMにプログラムを書き込むケースも多くありました。
私が呆然としていると、一緒に作業をしていた上司が口にしたのは「まずは切り分けをしよう。CPUのバス制御を計測しよう」という言葉でした。
バス計測は、ICクリップの接続ポイントの間隔も狭く、準備にも時間がかかるため、ロジアナを用いた計測の中でも特に手間のかかる部類に入ります。

図2バス計測時のICクリップの接続イメージ
しかし、上司は迷うことなくロジアナで計測することを即断即決し、すぐ行動に移したことに驚きました。
ロジアナで計測してみるとバス制御がまったく行われていないことが分かり、そこからROM動作時のバス設定に誤りがあることが判明しました。
正しいバス設定にプログラムを修正したところ、ソフトは正常に起動し、なんとか予定通りにソフトをリリースすることができました。
「面倒だから」と後回しにしていた自分に対し、必要だと判断して迷わず行動に移した上司の姿が強く心に残りました。
この出来事をきっかけに、計測が必要な場面ではためらわずにロジアナを使用するようになりました。
「適切な計測ポイントが分からない」という課題はすぐに解決できることではありませんでしたが、何度も先輩や同僚に助けを求めながら、少しずつ習得していきました。
今でも、「面倒だな」という思いが頭をよぎることはありますが、そのたびにあのときの上司の即断即決を思い出し、一歩踏み出すことができています。
若手時代に体験したこの出来事は、私の組み込みソフトウェア開発における大きな転換点になったと思います。
いま振り返れば、技術的な問題というよりも「面倒だから」と気持ちの面で逃げていただけでした。
今では自分自身が後輩に教える立場になりましたが、上司から学んだ姿勢を大切にし、行動で示せるよう努めていきたいと思います。
初心を忘れず、一つひとつの経験を同僚や後輩に伝えながら、より良い開発につなげていければと考えています。そして、お客様からいただく貴重な経験の機会に感謝しつつ、成長を続けていきたいと思います。
(M.A.)
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